借地権の相続税評価|借地権割合で計算する順番
借地に建つ実家を相続して、土地は自分のものではないのに相続税がかかるのかと戸惑う人は多い。
結論として借地権は課税対象で、評価は「自用地としての価額×借地権割合」が基本。割合は路線価図のA(90%)からG(30%)で示され、取引慣行がない地域は20%。定期借地権だけは式が別になる。
この記事の目次
借地権は相続財産になる。最初に確認する3点
国税庁のタックスアンサー「No.4611 借地権の評価」は、借地権を建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権(借地借家法2条1号)と説明し、相続税・贈与税の課税対象としている(2026年8月6日確認)。土地の名義が地主でも、その土地を使う権利は財産として値段が付く。
評価に入る前に、手元で確認できるものが3つある。どれも税理士に渡す資料になる。
- 借地契約書。契約日、存続期間、地代の額、更新料や承諾料の特約、増改築の制限。契約日は旧法か新法かの分かれ目に直結する
- 地代の支払い実績。通帳の振込履歴や領収書。地代がない、または固定資産税相当額しか払っていない場合、借地権として評価しない扱いになることがある
- 建物の登記事項証明書。建物が亡くなった人の名義か、すでに子の名義かで誰の財産として数えるかが変わる
契約書が見つからない場合も、地代の支払い記録と建物の登記、地主側が保管している契約書の写しから復元していく。編集部は士業ではないため、個別の判定や税額の計算には踏み込まない。この記事は、税理士に渡す前に自分で組み立てられる範囲を順番に並べたものになる。
評価の順番は4ステップ。式は自用地評価額×借地権割合
普通借地権の評価は、国税庁の相続税の申告要否判定コーナーに掲げられた次の式が基本になる(2026年8月6日確認)。
借地権の価額 = 自用地としての価額 × 借地権割合
自用地としての価額とは、その土地に何の権利も付いていない更地の前提で評価した金額を指す。借地でも、まずこの更地相当を出してから割合を掛ける。順番は逆にできない。
- 路線価地域か倍率地域かを確認する。国税庁の財産評価基準書で所在地を開き、「倍率地域」と書かれていれば評価倍率表を使う
- 自用地としての価額を出す。路線価地域なら路線価(1平方メートル当たり・千円単位)に奥行価格補正などの補正率と地積を掛ける。倍率地域なら固定資産税評価額に倍率を掛ける
- 借地権割合を読む。路線価の右隣にあるアルファベットを見る
- 掛ける。自用地としての価額に借地権割合を掛けたものが借地権の評価額
その上に建つ建物も別に評価する。通常は固定資産税評価額が使われ、毎年届く納税通知書で確認できる。借地権と建物を足したものが、この実家に関する相続財産の額になる。
借地権割合の調べ方。路線価図のA〜Gと、割合がない地域
国税庁「路線価図の説明」によると、路線価図の数字は1平方メートル当たりの価額を千円単位で表示し、その右隣のA〜Gの記号が借地権割合を示す(2026年8月6日確認)。
| 記号 | 借地権割合 |
|---|---|
| A | 90% |
| B | 80% |
| C | 70% |
| D | 60% |
| E | 50% |
| F | 40% |
| G | 30% |
「215D」とあれば1平方メートル当たり215,000円、借地権割合60%と読む。倍率地域なら評価倍率表の「借地権割合」欄に載っている。
割合が付いていない場所もある。国税庁「No.4613 貸宅地の評価」は、借地権の取引慣行がないと認められる地域では借地権割合を20%として計算するとしている。この場合、借りている側の借地権は評価しない一方、貸している地主側の土地は20%を控除して評価するという、左右が対称にならない形になる。
割合の読み方は 借地権割合とは?路線価図での調べ方と実家の評価 に分けて置いている。
旧借地法か借地借家法か。分かれ目は平成4年8月1日
実家の借地は親や祖父母の代からのものが多く、適用される法律が2つある。借地借家法(平成3年法律第90号)は平成4年(1992年)8月1日に施行され、同時に建物保護に関する法律・借地法・借家法が廃止された。同法附則4条は施行前に生じた事項にも適用するとしつつ、附則に例外を並べている。
- 附則5条:施行前に設定された借地権の、建物の朽廃による消滅は従前の例による
- 附則6条:施行前に設定された借地権に係る契約の更新は従前の例による
- 附則7条:施行前に設定された借地権の、建物滅失後の再築による期間の延長は従前の例による
平成4年7月31日以前に設定された借地権は、更新や朽廃という中心部分で旧借地法のルールが残る。施行後に一度更新されていても更新は従前の例によるため、旧法の枠が続く。契約書の日付が昭和なら旧法の世界だと思って読む。
新法側の数字は条文で確認できる。存続期間は30年、契約でこれより長い期間を定めたときはその期間(3条)。更新後は最初が20年、それ以降は10年(4条)。建物がある場合に借地権者が更新を請求し、地主が遅滞なく異議を述べなければ従前と同一条件で更新したものとみなされ(5条)、その異議には正当の事由が必要になる(6条)。
相続税の評価だけを見れば、旧法の借地権も新法の普通借地権も同じ計算になる。違いが出るのは、その借地権があとどれだけ続くのか、更新でもめたときにどちらが強いのかという中身の側で、売るか返すか住み続けるかを決めるときに効く。なお更新料の支払義務を定めた条文は借地借家法にない。特約の有無を確認したうえで弁護士に持ち込む領域になる。
定期借地権は計算式が違う。契約書で種類を見分ける
国税庁No.4611は借地権を5つに区分している(2026年8月6日確認)。旧借地法・借地借家法の普通借地権、一般定期借地権(22条)、事業用定期借地権等(23条)、建物譲渡特約付借地権(24条)、一時使用目的の借地権(25条)。このうち22条から24条が定期借地権等として、普通借地権とは別の式になる。
定期借地権等の価額は、課税時期の自用地としての価額に、設定時に借地権者へ帰属する経済的利益の総額を設定時の宅地の通常の取引価格で割った割合を掛け、さらに残存期間に応ずる複利年金現価率を設定期間に応ずる複利年金現価率で割った逓減率を掛けて求める。残り期間が短いほど評価が小さくなる形で、路線価図の借地権割合を掛ける計算ではない。
22条の一般定期借地権は存続期間50年以上で、更新と建物の築造による期間の延長がなく、13条の建物買取請求をしない旨を特約でき、公正証書による等書面で行う必要がある。23条の事業用定期借地権等は公正証書が条文上の要件になる。
実家の土地でこれらに当たるのは多くないが、平成4年以降に契約を巻き直している場合はありうる。契約書に「更新がない」「期間満了で建物を収去して返す」「50年」といった文言があれば、普通借地権の式で計算してはいけない合図になる。
地代を払っていない場合は借地権として評価しない
親の土地に子が家を建てて住んでいるような使用貸借では、借地権は発生していないものとして扱われる。地代を払っていない場合や、固定資産税相当額の負担にとどまる場合が典型で、借地権を計上しないかわりに土地の側は自用地として評価される。
逆に、地主が法人である、権利金のやり取りがあった、地代が周辺よりかなり高いといった事情があると評価の型が変わる。地代の水準や届出書の有無で調整する取扱いが積み重なっている領域で、自力で判定する場所ではない。地代の金額、権利金の授受、地主が個人か法人かを資料として揃えて税理士に渡すところまでが相続人の仕事になる。
小規模宅地等の特例は借地権にも使える
国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」は、対象を「土地または土地の上に存する権利」と定義している(2026年8月6日確認)。借地権は土地の上に存する権利にあたるため、要件を満たせば対象から外れない。土地を所有していないから使えない、という誤解が起きやすい。
- 特定居住用宅地等:330平方メートルまで80%減額
- 特定事業用宅地等:400平方メートルまで80%減額
- 貸付事業用宅地等:200平方メートルまで50%減額
特定居住用と特定事業用はそれぞれの限度面積まで併用でき最大730平方メートルになるが、貸付事業用を選ぶ場合は調整計算が入る。特例を使うには相続税の申告が必要で、申告期限までに分割が終わっていること、取得者ごとの要件を満たすことが前提になる。
誰が取得すれば要件を満たすかは 小規模宅地等の特例で80%減|実家に使える条件 に置いている。
地主側の底地(貸宅地)評価と、合計が100%にならない場面
借りている側と貸している側は、同じ土地を裏表で評価する。国税庁No.4613によれば、貸宅地の価額は次のようになる。
貸宅地の価額 = 自用地としての価額 - 自用地としての価額 × 借地権割合
借地権割合70%の地域なら、借地権が70%、地主側の底地が30%。地主から底地を買い取る、逆に借地権を地主に売るといった交渉の土台になる。
ただし常に合計が100%になるわけではない。取引慣行がないと認められる地域では、借りている側の借地権は評価せず、貸宅地は20%を控除して評価するため、足すと80%にしかならない。制度上そうなっている箇所で、どちらかが間違っているわけではない。親が底地、子が借地権というように相続の中で両者が混在する場合は、関係図を先に描いてから評価に入る方が早い。
相続税評価額と、実際に売れる金額は別
相続税評価は課税のための金額で、市場で成立する価格とは別物になる。特に借地権は地主の承諾という手続きが挟まる分、更地の売買と同じようには動かない。
借地権を第三者に売るには地主の承諾が要り、譲渡承諾料(名義書換料)を支払うのが慣行になっている。借地権価格の10%程度が目安として示されることが多く、東京地裁の借地非訟事件での運用がその参照元とされる。法律で決まった率ではないため、金額は当事者の合意で決まる。地主が承諾しない場合は、裁判所に承諾に代わる許可を求める借地非訟の手続がある。
借地借家法13条は、存続期間が満了して更新がないときに、借地権者が建物その他の附属させた物を時価で買い取るよう請求できると定める。14条は借地上の建物を取得した第三者の買取請求を定める。ただし22条の一般定期借地権では、この買取請求をしない旨を特約できる。
相続直後の手順は 借地に建つ実家を相続したら|最初に確かめる3つと4つの出口 にまとめている。
手元でやること、専門家に渡すこと
- 借地契約書を探す。契約日が平成4年8月1日より前かどうかを見る
- 地代の支払い記録、建物の登記事項証明書、固定資産税の納税通知書を揃える
- 国税庁の財産評価基準書で所在地を開き、路線価と借地権割合の記号を控える。倍率地域なら倍率表の借地権割合を控える
- 自用地としての価額を出し、借地権割合を掛けて概算を作る
- 定期借地権に当たらないか、地代が使用貸借の水準でないかを契約書で確かめる
- 小規模宅地等の特例を使えるか、誰が取得するかを含めて税理士に確認する
4の概算までは相続人が自分で作れる。補正率の当て方、地代水準による調整、特例の適用可否、申告書への落とし込みは、資料を見た専門家の領域になる。路線価図・評価倍率表と各タックスアンサーは国税庁のサイトで開ける。年分で数字が変わるため、相続開始の年分を選んで確認する。
