借地に建つ実家を相続したら|最初に確かめる3つと4つの出口
借地に建つ実家を相続すると、土地の権利証が出てこないまま話が止まりがちです。結論から言うと、相続そのものに地主の承諾は要りません(民法896条)。
ただし建物の相続登記は3年以内が義務で、10万円以下の過料の対象です。契約が平成4年8月1日より前かどうかで適用法令も変わります。
この記事の目次
借地の実家は「建物はあなたのもの、土地は借りたまま」
借地権は、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権です(借地借家法2条1号)。土地は地主のものですが、その上の建物は借地人の所有物です。相続で引き継ぐのは、建物の所有権と、土地を借り続ける権利の2つになります。
全体の流れは 実家じまいとは?進め方と費用の全体像を7ステップで解説 にまとめてあります。借地の場合は、そこに地主との調整という工程が1本増えます。
最初に確かめる3つ(契約書・設定時期・地代の記録)
何より先に、次の3つを手元に集めます。
1. 借地契約書
契約書がなくても借地権は消えませんが、更新料の特約、増改築を禁じる条項、期間の定めは契約書にしか書いていません。
2. 借地権をいつ設定したか
契約日が平成4年(1992年)8月1日より前か後かで、適用される法律が変わります。
3. 地代の支払い記録
通帳の振込履歴、地主の領収書、納税通知書。地代が滞っていないかは、相続後に土地の返還を求められたときの土台になります。滞納は契約解除の理由として実際に持ち出されます。
平成4年8月1日という分かれ目(旧借地法か借地借家法か)
現行の借地借家法(平成3年法律第90号)は平成4年8月1日に施行されました。東京地方裁判所が公開している借地非訟の説明でも、更新後の建物再築許可の申立ては平成4年8月1日以降の借地権が対象と区別されています(2026年8月6日確認)。それ以前に設定された借地権は、廃止された借地法(大正10年法律第49号)のルールが場面ごとに生き残ります。
借地借家法の附則は、原則として施行前に生じた事項にも適用するとしたうえで(附則4条)、次を「なお従前の例による」と切り分けています。
- 建物の朽廃による借地権の消滅(附則5条)
- 借地契約の更新(附則6条)
- 建物の滅失後の再築による期間の延長(附則7条)
- 建物買取請求権のうち13条2項の代金支払猶予(附則9条1項)
- 更新後の建物再築の許可(附則11条/18条は施行前設定の借地権に適用しない)
| 項目 | 旧借地法(平成4年7月31日以前の設定) | 借地借家法(平成4年8月1日以降の設定) |
|---|---|---|
| 期間を定めなかった場合 | 堅固な建物60年/それ以外30年(旧法2条1項) | 30年(3条) |
| 契約で定める場合の下限 | 堅固30年以上/それ以外20年以上(旧法2条2項) | 30年以上(3条ただし書、9条により短い定めは無効) |
| 更新後の期間 | 堅固30年/それ以外20年(旧法5条) | 初回20年、2回目以降10年(4条) |
| 建物の朽廃 | 期間満了前に朽廃すると借地権が消滅する定めがある | 朽廃による消滅の規定はない |
木造の実家なら、旧法下では更新のたびに20年が積み上がります。新法なら初回20年、その次からは10年です。
地主の承諾が要る場面と、要らない場面
承諾が要らない場面
法定相続人が相続すること自体には、地主の承諾は要りません。民法896条が、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めており、相続は譲渡ではなく包括承継だからです。賃借権の譲渡・転貸に承諾を求める民法612条は働きません。
相続を理由に譲渡承諾料や名義書換料を請求されても、原則としてその法的根拠はありません。
承諾が要る場面
- 相続人以外への遺贈・死因贈与:包括承継ではないため、賃借権の移転として承諾の対象になります
- 第三者への売却:建物を売れば土地の賃借権も移るので、民法612条により承諾が必要です
- 建て替え・増改築:契約に増改築を制限する条項がある場合に必要になります
承諾が得られないときの出口も法にあります。譲渡は19条1項で、地主に不利となるおそれがないのに承諾しないとき、裁判所が承諾に代わる許可を与えられます。増改築は17条2項に同じ仕組みがあります。いずれも借地非訟事件で、東京地裁の説明ではおおむね1年以内に終わる事件が多いとされています(2026年8月6日確認)。
裁判所は許可の条件として財産上の給付を命じることができます(19条1項後段、17条3項)。これが実務でいう承諾料です。賃借権譲渡では借地権価格の1割程度を条件とする例が多いと弁護士の解説で説明され、建て替え承諾料は更地価格の3〜5パーセント程度という幅で示す解説もあります。
相続登記は3年以内。借地でも義務の対象になる
借地でも、建物はあなたが相続した不動産で、相続登記の申請義務化の対象です。
法務省の案内によれば、相続により不動産の所有権を取得した相続人は、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があり(不動産登記法76条の2第1項)、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(同法164条1項)。施行日は令和6年4月1日です(2026年8月6日確認)。
- 遺産分割が成立した場合は、その成立日から3年以内に内容に応じた登記が別途必要(同法76条の2第2項ほか)
- 令和6年4月1日より前に発生していた相続にも適用され、その場合の期限は令和9年(2027年)3月31日
- 期限内にまとまらないときは相続人申告登記の申出で基本的義務を果たせる。ただし遺産分割成立後の追加的義務は果たせず、売却や抵当権設定をするなら結局は相続登記が要る
借地では、過料を避けることに加えて10条1項の対抗力を自分の名義で確保する意味があります。手続きの流れと費用は 実家の名義変更の手順と費用|生前と相続後の違い を参照してください。
相続税では借地権も財産として評価される
土地を持っていないから相続税に関係ない、とはなりません。国税庁のタックスアンサーNo.4611は、借地権は相続税や贈与税の課税対象になるとしています(令和7年4月1日現在の法令等、2026年8月6日確認)。同ページは借地権を、一般の借地権、定期借地権(22条)、事業用定期借地権等(23条)、建物譲渡特約付借地権(24条)、一時使用目的の借地権(25条)の5種類に区分し、評価上は1つめを借地権、残りを定期借地権等として扱います。
一般の借地権の価額は、その宅地の自用地としての価額に借地権割合を乗じて求めます。路線価図の説明によれば、路線価は1平方メートル当たりの価額を千円単位で表示し、その右隣のA〜Gの記号が借地権割合を示します。
| 記号 | A | B | C | D | E | F | G |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
215Dなら1平方メートル当たり215,000円で借地権割合は60%です。実際の評価は奥行や間口の補正が入り、定期借地権等は残存期間などを基礎とした別の計算になります。調べ方は 借地権割合とは?路線価図での調べ方と実家の評価 で図の見方から扱っています。
評価額と申告が必要かを先に確認する
借地権の評価は自用地評価額と補正の掛け合わせで、基礎控除の範囲に収まるかどうかも土地の場所で変わります。申告の要否と税額の計算は税理士の領域です。
無料で相続税の相談をする地代・更新料・承諾料でもめやすいところ
相続をきっかけに、地主から条件の見直しを持ち出されることがあります。
地代の増額請求
借地借家法11条1項は、公課の増減、土地価格の変動、近傍類似の地代との比較で不相当になったときに、将来に向かって地代の増減を請求できると定めています。相続が起きたこと自体は増額の理由になりません。協議がまとまらない場合、請求を受けた側は増額を正当とする裁判が確定するまで相当と認める額を支払えば足ります(同条2項)。ただし確定額に不足があれば年1割の利息を付けて支払います。
更新料
更新料は、民法にも借地借家法にも規定がありません。最高裁昭和51年10月1日判決は支払う商慣習があるとはいえないとしており、契約書に定めがなければ支払義務は生じないという整理が実務で通っています。一方で算定基準が具体的な特約は有効とされ、東京高裁令和2年7月20日判決のように相当の更新料という文言では請求権にならないとされた例もあります。
借地の実家を手放す4つの出口
住み続けないと決めたとき、選べる方向は4つです。どれも地主が絡みます。
1. 地主に借地権を買い取ってもらう
土地が完全な所有権に戻るので動機がある相手です。ただし買う義務はなく、価格も交渉次第です。
2. 第三者に借地権付き建物として売る
地主の承諾が要ります(民法612条)。得られなければ借地借家法19条1項の許可の申立てという道があります。ここで地主には介入権があり、裁判所が定めた期間内に自ら建物と賃借権を買い受ける旨を申し立てると、相当の対価を定めてそれを命じることができます(19条3項)。方法ごとの違いは 借地権付きの実家を売る3つの方法|地主・第三者・同時売却 で整理しています。
3. 地主の底地と同時に売る
借地権と底地が一つになれば、買い手にとっては普通の所有権の土地です。分かれたまま売るより条件が良くなりやすい代わりに、地主と足並みを揃える必要があります。仕組みは 底地と借地権|地主と同時に売ると高くなる仕組み にまとめてあります。
4. 更地にして返す
解体費は自己負担で、木造かどうか、重機が入る道幅があるかで幅が出ます。借地借家法13条1項は、存続期間が満了して契約の更新がないとき、借地権者が地主に対して建物などを時価で買い取るよう請求できると定めています。14条は、建物を取得した第三者について、地主が譲渡や転貸を承諾しないときに同じ請求ができるとしています。16条により、これらに反する借地権者に不利な特約は無効です。ただし附則9条1項により、13条2項(代金支払いの期限許与)は施行前に設定された借地権には適用されません。使い方は 更地にして返せと言われたら|建物買取請求権という条文 で扱っています。
時系列で並べ直す
期限のあるものだけ抜き出して並べます。いずれも2026年8月6日時点の制度です。
| 時期 | やること | 根拠・期限 |
|---|---|---|
| 相続を知ってすぐ | 契約書・地代の記録・建物の登記事項証明書を集める | 期限なし。ただし全部の判断の前提 |
| 相続を知ってすぐ | 地主へ相続が起きたことと新しい借地人を通知する | 承諾は不要(民法896条)。連絡は実務上の記録 |
| 3か月以内 | 相続放棄をするかどうかの判断 | 民法上の熟慮期間。地代の負担も判断材料になる |
| 10か月以内 | 相続税の申告と納付(必要な場合) | 借地権も課税対象(国税庁No.4611) |
| 3年以内 | 建物の相続登記 | 不動産登記法76条の2。10万円以下の過料 |
| 令和9年3月31日まで | 令和6年3月31日以前に発生した相続の登記 | 施行前の相続も義務の対象 |
| 期間満了時 | 更新するか、返すか、売るかの判断 | 更新の規定は設定時期で旧法か新法かが分かれる |
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